娘への手紙

　毎年２月の今頃思うこと。

　天気もちょうど今日みたいなこんな感じ。

　どんより曇ってて、寒くて、雨も雪も降りそうにないけど静かで平和で特別でない普通の日。

　予定日は２０日の日曜日だったけど、３日前の木曜日。

　あ！今年もその時とおんなじね。


　　*　*　*


　暮の検診で逆子とわかって毎日寝る前にやる　”逆子を直す体操”　は結構しんどかったよ。

　四つんばいになってうぅ～んって踏ん張っていると、腕や腰が苦しくなってきて

　なるべく大きく右側（だったかな、左側だったかな）に倒れるの。

　あんまり我慢して踏ん張っているとべちゃってつぶれそうになるけど、

　あれでつぶれたらあなたはおなかの中で凄い衝撃でビックリしたでしょね。

　それでも生まれる一週間前に直って無事おなかを切らずに産まれてほんとよかったね。

　お正月が過ぎて１月の終わり頃に食べた牡蠣にあたったときもビックリしたね。

　お母さんだけあたって昼間一人で大変だったよ。

　臨月間近になって、あなたは窮屈になった小部屋の中でじっと静かに時が過ぎるのを

　待っていたのかな。

　結構衝撃とか振動とかあったんじゃないかな。

　看護婦さんによく産気づかなかったわねーって言われちゃったもん。

　って、この話毎年してるね。

　これでビックリして逆子が直ったのかもねーってね。

　その日は夕方までずっとどんより曇っていて、冷え込んできたなぁって思っていたら

　その時のお知らせが少しずつやってきたよ。

　おばあちゃんのお友だちに車で病院に送ってもらって、家を出る前に夕飯代わりに食べたのは

　焼かずにしっとりした食パンにマーガリンをたっぷり塗って

　お砂糖をたっぷりのせたシュガートースト。

　先生に、検診のたびに甘いもの食べ過ぎないように・・・体重増やさないように・・・

　って言われていたから、我慢してたんだよねー甘いもの。

　だからこれでもう我慢しなくていいんだってね。

　でもたいしてご飯だってお菓子だってぜんぜん食べてないのに増えるんだよね。

　体重。

　それはどんどんあなたが大きくなっているという証拠だったのだけど。
　
　超甘くてグラニュー糖がシャリシャリして美味しかったなぁ。

　宿直の看護婦さんは恐くてね。

　規則的に痛みがきたから陣痛は陣痛だったのだけど、まだまだあなたが出てくるには

　その道のりは狭くて開いていないらしくて、産まれるのは明日の朝ね・・・

　って言うからお父さんは帰っちゃうし、ちょうど他には誰ひとり入院している人はいなくて

　そんなに新しくない病院の２階のいくつかある病室の中の一室にあなたとお母さんふたりきり。

　いたいなぁ。ねむいなぁ。いたいなぁ。ねむいなぁ・・・

　って夢だか現実だかなんだかわからなくなっているうちにあっという間にその時はきてね。

　これまたビックリだったね。

　なんでまたそんなに急いで出てきたの。

　”行動し始めると結構一気に早い”　ってお母さんとおんなじね。

　普段はのんびりおっとりだけどね。

　難産で２４時間かかったとか３０時間かかったとかいう人には申し訳ないけど、

　たった４時間で元気な産声は思ったより小さめだったけど生まれてきてくれてありがとう。

　看護婦さんにはそんなところで息んじゃダメよってお尻叩かれて痛かったけど、

　だっていきなりだったからどうしていいのかわからずに、ベッドの手すりに

　つかまるしかなかったんだもん。

　お尻叩かれた痛さなんてどうでもよかったけど、分娩室までのまっすぐに２０メートルくらいの

　道のりは長かったよ。

　ゼッタイ看護婦さんも焦ってたよね。

　まさかこんなに早く産まれるとは思っていなかったんでしょうね。

　先生だってお隣の自宅で仮眠でもしていたのかもね。

　なんだかよたよたしながらエプロンみたいなの締めながら分娩室にまだかまだかと

　思うくらいにやっと入ってきたもの。


　　*　*　*

　
　高校生活もあっという間で残すところあと１年ちょっとだね。

　勉強に部活に予備校にバイトに、ライブに行ったり展覧会に行ったりグループ展やったり。

　忙しい毎日で充実した高校生活。

　お母さんはどんなときも何があってもあなたの味方。

　あなたが今ここにこうしているのはたくさんの人のお陰で、力で、

　あなたに対する暖かな優しい思いや気持ちや心が、ひとつひとつが集まって重なり合って

　あなたが存在しているのだということをいつも忘れないでね。

　そして、あまりそれを表現するのが得意でないことはわかっているけど

　言葉で態度で自分なりに感謝の気持ちをちゃんとお返ししてね。

　そして今まで自分がもらった多くの幸せを、今度は別の違う人にほんの少しでも

　分けてあげられるようなそういう人になってね。

　自分ひとりでできないことはいつでもお母さんも手伝うよ。

　でもしてあげられることに限りはあるけどね。


　梅が咲いているよ。

　お花なんかにも少しは興味を持とう。

　今年はお雛様出してあげなくちゃね←これはお母さんのせいだね。

　おじいちゃんに習字のこと・・・電話してね。

　今日はバイトだガンバロー！